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日本の財政と人道の「ハイブリッド難民政策」を見える化せよ(The Tokyo Post No.5)

世界の難民や国内避難民の総数が1億人を超えたが、その一部はロシアのウクライナ進攻による1,300万人に上るウクライナ避難民の発生だ。それにどう対応すべきか、ますます大きな国際公共政策課題だ。難民支援プレイヤーとして日本の現在地を確認し、今後の「ふるまい」について提言したい。

難民支援は「受け入れ」と「財政支援」のハイブリッドで

ロシアの ウクライナ進攻に際して、 岸田内閣は 1000億円を超える緊急人道・財政支援を実施すると同時に、ウクライナ避難民の上限なき受け入れを開始した。7月末日現在までに1,650人のウクライナ人が来日し、戦争の動向にもよるが、2022年末までには2,000人に達する可能性がある。

このように「財政支援」と「避難民受け入れ」を組み合わせた難民の保護政策は「ハイブリッド難民政策」と呼ぶことができる。組み合わせ内容は各国の置かれた地政学的な条件と政治的、経済的、社会的なあり方によって異なる。各国の受け入れには自ずから限界がある以上は国際的な負担分担は必須だが、各国がどのような「ハイブリッド難民政策」を取ることで国際協調をするかによって、国際的難民制度の有効性が変わってくる。念頭に置くべきは、難民制度の基本にある、「異なるが共通の責任」を各国が引き受けることで国際社会全体として難民保護を推進しようとする理念だ。

難民の国際的保護の現状~「負担の押し付け合い」が横行

 もともと難民の国際的保護はハイブリッドな形をとることが想定されている。難民の保護には大きく分けて二つの方法がある。一つは難民の国内への受入れで、これはさらに難民認定を通しての条約難民ないし補完的保護対象者としての受入れと、難民キャンプなどで長い避難生活を送る難民を受け入れる「第三国定住制度」や留学生としての受け入れなど「代替的受入れ」に分かれる。

もう一つの難民保護の方法は、難民を多数受け入れている一部の国の負担が重くなりすぎないように、2国間財政支援やUNHCRなど国際機関への多国間拠出によって「負担の分担」を図るものだ。1951年の難民条約の全文は負担分担という国際協力が難民問題の解決には不可欠だと謳っているが、実際の負担分担の方法については沈黙している。それもあり、難民の数が増え続ける中で、近年では「負担の分担」より「負担の押し付け合い」が横行している。

日本の難民受け入れの現状~受け入れ拡大し「難民鎖国」の汚名を返上

「ハイブリッド難民政策」の視点から見た日本の立ち位置はどうか。難民受け入れ数は、紛争国から遠いなどの地政学的状況もあって、第三国定住事業もあわせて年に100人前後と少なかった。このため日本は「難民鎖国」政策を取っていると批判されてきた。しかし、2010年に開始された再定住事業は拡大している。シリア紛争を機に始まった政府や民間によるシリア難民の留学生としての受入れなど、受入れ法は多様化している。

中でも昨年来のミャンマー、アフガニスタン、ウクライナにおける事態を受けて、政府はこれらの国からの難民・避難民を1,000人単位で受入れている。「補完的保護」の枠組みの導入は入管法の改正を待たずに実質的には始まっていると言える。特に8,000キロも離れたウクライナからの避難民の受入れは世界を驚かせ、アナウンスメント効果ないし情報効果によって想定以上のウクライナ避難民の来日を招くなど、「難民鎖国」イメージは解消しつつある。

日本の資金的協力の現在~世界5位の拠出を誇る

日本政府による難民救済のための資金協力は、二国間援助、多国間援助共に伝統的に大きく、UNHCRなど国際機関を通しての負担分担では長年に亘ってトップドナーグループの一員だった。特に1990年代はアメリカに次ぐ2番目の拠出国であった。近年ではランキングは下がり気味だが、それでも2020年に日本が緊急人道支援に拠出した額は世界で4番目だし、2021年のUNHCRに対する拠出も200億円前後になり、国別では第5位だ。

注目すべきは、民間団体による寄付金だ。NPO法人国連UNHCR協会に対する難民募金も今年はウクライナを中心に100億円に上る勢いだ。ほかのNGOに対する寄付金も増えている。

日本の支援のインパクトを正確に測ることは難しいが、2021年にUNHCR本部が実際に受け取った援助資金は約5,000億円であり、そのうち日本からの拠出と募金が仮に300億円ないし6%とすれば、同年の難民や国内避難民の数を約8,000万人として単純計算では480万人が裨益したことになる。実際には日本の援助は国別、セクター別で使途指定付きだから、もっと少ない人々がより多くの支援を受けているが、いずれにしても誇るべき数字だ。

日本の資金協力の特徴は、「人間の安全保障」を軸とした人間中心主義、「人道と開発のリンケージ」や自助努力を軸とした自立支援で、それは国際的にも評価されている。ただ、そのことには国内ではほとんど認識されていない。「見えやすい」がインパクトの小さい国内での難民認定には過剰な注目が集まる半面、外国での事業のため「見えない」もののインパクトのはるかに大きい資金協力には注目が集まらないのだ。

ハイブリッド難民政策の推進を~支援の「見える化」がなぜ必要か

ウクライナ戦争で、アメリカは巨額の軍事・財政援助と共に人道支援を行い、同時に10万人のウクライナ避難民の受入れを決めた。これは意識的に軍事、財政、人道を組み合わせた「ハイブリッド政策」だ。日本はアメリカの真似はできないが、受け入れと資金協力を組み合わせた「ハイブリッド難民政策」は、よりインパクトを増し、日本外交にとっても大きな力を持ちうる。「ハイブリッド難民政策」は、他の外交的リーダーシップ、例えば「自由で開かれたインド太平洋地域」の推進などと組み合わされるとき、さらに強力な「ハイブリッドパワー」の源となり得る。

一方では「難民鎖国」のイメージが残り、他方では「拍手を求めない援助」を是とする控えめな姿勢ゆえに、日本の難民政策は国際社会では必ずしも評価されてこなかったが、「ハイブリッド難民政策」を「見える化」し、意識的にかつ積極的に使うことで、国際的な難民保護における日本の役割は再認識されるであろう。

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