1年以上前から世界銀行が作成を進めていた「世界開発報告2023」が先日発表された。今回のテーマは「移民、難民と社会」だ。難民問題を世界銀行が取り上げるのは初めてで画期的だ。
気候変動を含め、移民難民問題がこの先ますます大きな地球規模課題になり、それには人道的見地だけでなく、世銀の得意とする開発的見地も必要との認識から作成されている。ちなみに世界銀行グループは難民を受け入れている国の支援に6000億円も出している。
越境移動問題を、受け入れ国でのスキルマッチ(縦軸)と越境移動の動機(横軸)で組み合わせて考察し、国境を越えた移動する人々を4つに分類し、それぞれについて出身国と受入国の政策オプションを提示している。縦軸のスキルマッチ(match)は労働経済学、横軸の移動の動機(motive)は国際法(難民法)の視点だ。
内容をイメージできるように何枚かのスライドを(意)訳してみた。distressed migrantsは 「生存移民」としてある。日本で今まさに議論されている技能実習・特定技能の制度改革や、改正入管法にある難民の「補完的保護」の役割や、ODAによる世界各地の難民・国内避難民支援政策について、新しい視座や対策が沢山ある。
こういうのが難民政策を巡る「国際基準」的な議論だ。日本の難民政策議論は法的な難民認定と不認定者の収容送還問題に矮小化されていていることもあり、320ページのこの報告書で数行しか触れられていない。作成者グループにも日本人はいない。
日本語版もまもなく出るだろうが、英語版は下からタダでダウンロードできる。難民や開発問題に関心を持つ学生、修士・博士論文のテーマ探しに悩む院生、法律以外の分析枠組みに関心ある研究者、新しいODA大綱の推進に後押しの欲しい外務省・JICAだけでなく、入管法改正の国会答弁で疲れた法務省・入管庁を含む各省庁、人道と開発のネクサスに関心ある国際機関勤務者、自分たちのしている仕事の意義を確認したいNGO関係者、そしてもちろん一般読者にも刺激的な報告書。
あえて欠点と言えば長い報告書であることだが、17ページの要約版もある。
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