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ウクライナ避難民「受け入れ格差論」をどう考えるか?(3)

先に投稿した「受け入れ格差論」をどう考えるか?(2)で、難民の受入れには限界があり、「選択的」受け入れが避けられないこと、また日本にまで逃れてくる難民(申請者)は難民の中の「エリート」であることに触れた。ここにも「格差」がある。

 では「非エリート」を助ける方法はないのか。ある。一つは第三国定住事業だ。国際的には年間約10万人が欧米諸国に受け入れられており、日本もアジア諸国にいる難民を年間60人受け入れることにしている。支援期間は5年ほどだが、過去2年はコロナ禍で中止されている。同事業は難民の希望やニーズと受入国のキャパシティ双方を考慮して規模も決まるので、日本には向いている。これを再開し、さらに上限も100人、200人と増やして日本の難民受け入れの柱とするのが望ましい。

 ただ、この事業は規模が小さい上、コストがかかる。数年前まで受入れ上限は年間30人だったが、その予算は約1億3000万円で、一人当たりでは400万円だ。5人家族なら2000万円になる勘定だ。現金を渡すのではないが、飛行機代から日本語訓練・就労支援などきめ細かい支援には人件費などがかかるからだ。日本のように受け入れ人数が数十人と少ないと「規模の経済」がなく、一人当たりのコストは大きくなる。再定住事業にも自ずから上限が出てくる。

 一般的に、先進国での難民支援は高額だ。日本はウクライナ避難民を今まで1700人ほど受け入れたが、そのコスト総額は不明だ。政府が出す資金は20数億円とみられ、日本財団が50億円の拠出を約束しているが、民間の寄付を受けたNGOや受け入れ自治体などが負担しているコストもある。すべてを合わせると数年で百数十億円に達する可能性がある。

 シリア難民など100万人以上を受け入れたヨーロッ諸国の一人当たりの年間費用は1万2千ドル、約150万円だ。2015年からドイツに逃れたシリア人の50%は大卒の男性で、大卒が少ない同国では「エリート」に属するが、高度なスキルを求められる先進工業国ドイツで就職することは容易でなく、長期の語学研修や職業訓練を受ける。にもかかわらず就職率は低い。「支援コストの回復」が進まないまま、ドイツは受け入れのために数兆円をかけている。他方でシリアは「頭脳流出」で戦後復興に必要な貴重な人材を失った。

 一方、トルコやヨルダンに残るシリア難民への国際援助は一人当たり100ドルに満たないだろう。シリアから脱出すらできない国内避難民もほとんど国際的援助を受けない。仮にドイツ国内で使われる数兆円の難民支援資金の一部、例えば数千億円、をトルコ、ヨルダン、レバノンなどでの教育や職業訓練に使うなら、裨益する難民の数は何十倍にもなる。危険な地中海超えをするインセンティブも減る。「できるだけ多くの難民を助ける」ことが目的であるなら、難民が先進国にたどり着くのを待って支援を開始する現在のグローバルな難民保護体制と資金配分は最適ではない。

 さらに、日本を含む先進国が一部の難民を受け入れて支援することは、他の難民を助けないという意味で難民の「選別」であり、長期的には難民の間に「格差」を作りだす。その格差を知る途上国の難民の一部は、地中海を密航船でヨーロッパに向かったり、アメリカ・メキシコ国境のカベを超えてアメリカ入国を図る。何れも命がけだが、たどり着けば得るものは大きい。

 このような資源配分問題を踏まえたうえで、「非エリート」難民を助けるもう一つの方法は、難民の発生する国の周辺国、つまり難民が大量に流れ込んでいる国に援助資金を振り向けることだ。「難民を助ける国を助ける」、「難民を助けている国で助ける」方法だ。ウクライナ避難民であれば、ポーランドや貧しいモルドバなどに資金援助をすることだ。日本はポーランドなど周辺国に総額で1000億円に上る人道・経済援助をしている。これは数百万人を裨益する。国内受け入れとは何桁も違う。アフガン難民であればパキスタンやイランを、ロヒンギャであればバングラデシュに資金協力をするのが合理的だ。

 しかし、援助予算が一定であるとすれば、ポーランドなど一部の国への資金供与は、ソマリアやイエメン、中央アフリカ共和国からの難民を受け入れるそのほかの周辺国への資金量を減らすことになる。どこにいる難民であってもその命とニーズは同じだとする立場からは認められないが、実際には支援する側が結果的に作り出す「命の格差」が存在する。

 「第三国定住」も資金協力も、増え続ける難民保護のための国際的負担分担、責任分担として位置づけられる。いずれの国も(社会的支持を含めた)限られた資源しか持たない中で、一部の国・難民への支援は「格差」を広げる。「どの国の難民を、どこで、どの国が助けるべきか?」への答には、避けられない政治的、倫理的ジレンマがある。

 日本までたどり着いて難民は、そうでない難民より助けられる価値があるのか、という問いに加えて、日本国内の貧困問題も深刻化している中で、日本人はどこまで寄る辺なき外国人である難民を助けるべきなのか、という問いも出てくる。

 この絡みあった「格差問題」に「正しい」答えはない。一義的には各国の政府が答えを出すのだが、その方向性を決めるのはそれぞれの国の国民だ。ウクライナ避難民「受け入れ格差論」はそのような問いを私たちにも突きつける。(完)

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