冒頭のステートメントで、高等弁務官フィリポ・グランディは:
①欧州ドナー諸国がウクライナ避難民を受け入れ、資金も提供する一方で、アフリカや中東、アジア、中米などからの難民・避難民受け入れには消極的で、資金協力も増やさない(減らす)ことに対して「人種主義だ」と批判し、
②英国がフランスからの不法移民(難民申請者)をルワンダに移送し、そこで難民申請をさせようとしていること(自国領土への接近を阻止し、難民認定手続きを” 外注”すること)に対しては「反対だ」と明言。
難民の国際的保護制度の根幹を崩しかねない政策をとる主要(ドナー)国を壇上からはっきり批判することは、難民高等弁務官の任務ではあるが、易しいことではない。
易しくない理由:国際機構論的に言うと、UNHCRはその大半の資金を欧米諸国に出してもらっている国際機関(政府間組織 Inter-Governmental Organization、IGO)だ。加盟国(特に欧米諸国)が「本人」であり、UNHCRは「代理人」に過ぎない。本人に首根っこをつかまれている代理人が、本人を公然と批判することにはリスク(拠出金の削減、高等弁務官の任期など)を伴う。
公然たる批判は、加盟国と高等弁務官の間に強い信頼関係があってこそできることだ。批判された英国は、後のステートメントでは、この批判に触れなかった。
難民保護の原則を主張することと、各国の主権の尊重という二つのバランスを上手にとれないと、高等弁務官は影響力を失う。UNHCRはNGOではなく、IGOだということを忘れてはいけない。アナン国連事務総長に解任されたルベルス元高等弁務官がその例だが、ほかにも加盟国の支持を失って辞職した高等弁務官もいる。
ウクライナのためには十分な資金が集まるものの、アフリカなどほかの地域への拠出金が減っていて、支援量も減らさざるを得ないUNHCRにとって、欧米諸国の拠出金確保は死活問題。そもそも、UNHCRの年間予算の半分しか集まらないのが「伝統」だ。原則と現実をバランスしなければいけない。
グランディ高等弁務官には幅広い加盟国の支持があることは、執行委員会の議論からうかがえるが、今回の強い「批判」も、思い付きではなく、内部で十分に吟味されたものだろう。もっとも、英国がグランディ高等弁務官の言うことを聞く可能性は低い。「主権(国境管理)を取り戻す」と言ってEU離脱までした英国(保守党)にとって、譲れない線だからだ。それを承知での批判。
今の国連事務総長のグテーレスは、高等弁務官時代に歯にものを着せぬ批判を時々して喝さいを浴びたが、事務総長になって、暴君トランプと対峙した時には、ほぼ沈黙を守った。トランプを怒らせることは、アメリカの拠出金の削減・停止によって国連全体をさらなる危機に追い込む可能性があったからだ。多くの人々が失望したが、グテーレスなりの難しい政治的判断があったのだろう。
自前の資金があったり、説明責任を負う「本人」を持たないアドボカシーNGOは、何でも言えるから気楽だ。それがNGOの強みだが、国際的正当性は弱い。最近話題の宗教団体も、国連に登録されたNGOだ。
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