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saburotakizawa

難民(The Tokyo Post No.7)

The Tokyo Postのテキスト配信は残念ながら今回が最後になるので、近年の難民関係の出来事と来年以降への展望をまとめて連載を終えることにしたい。

難民鎖国から難民開国へ

2021年2月のミャンマー国軍のクーデターを受けて、約3万5,000人の在日ミャンマー人の希望者全員について在留延長を認め、2022年10月までに約8,000人が「補完的保護」の対象となった。2021年8月のアフガニスタンのタリバン制圧後には、日本政府やJICA関係者約400人が政府の支援で日本に避難し、2022年9月までに124人が条約難民と認定された。そのほか自力で逃れてきた約400人のアフガン人も、条約難民なり「補完的保護」の対象として救済されるだろう。2022年2月のロシアのウクライナ進攻を避けて来日したウクライナ人は年末までに約2,200人になる。政府は、ウクライナ避難民の受入れに積極的に対応し、また、自治体や大学、企業、市民団体による支援活動も「ブーム」と得るほどの活況を呈している。

このように、今年だけでも日本が受け入れた難民や避難民の数は1万人に達する。1980年代から28年間に亘って約1万1,000人が受け入れられたインドシナ難民に匹敵する数の人々が、わずか1年の間に来日したのだ。その主たる理由は、ミャンマー、アフガ二スタン、ウクライナにおける武力紛争と迫害行為という客観情勢だが、日本政府の難民受け入れについての積極的な姿勢と、それを支持する世論がなかったなら、この規模での受け入れはあり得なかっただろう。日本の難民政策は「難民鎖国」から「難民開国」への転機を迎えている。

新たな政策課題

それはまた新たな政策課題につながる。日本が国際的責任・負担分担の一環として相当数の難民・避難民を受け入れる場合、第三国定住による「定住難民」、難民認定手続きを通した「条約難民」、そして補完的保護など「その他の庇護」の3つの方式をどのように整理するかの問題がある。条約難民を認定するための「難民認定ガイドライン」の公開は「補完的保護」の対象者特定するためにも急がれる。日本まで逃げてくる難民は地理的条件などにより限られるが、近い将来にありうる「台湾有事」では、数万人の避難民が南西諸島に来る可能性は強く、「補完的保護」の制度の整備は喫緊の課題だ。

今後も日本にふさわしい国際的な責任・負担の分担をするならば、日本の伝統的な強みであるUNHCRなどに対する資金協力をどの程度の規模にするかも課題となろう。国連UNHCR協会への今年の寄付金だけでも、ウクライナ避難民支援を中心に200億円近くになりそうだということになれば、難民支援を巡る政府と民間の資金協力の「棲み分け」についても議論があり得るだろう。

難民政策と移民政策(外国人労働者問題)は必然的に連動するが、現在の難民認定申請者のかなりが難民というよりは日本での稼働を希望する者であり、またそれを歓迎する中小企業があるという実態を見た場合、不認定となった(またはなりそうな)難民申請者を外国人労働者の受け入れ制度に誘導する施策も検討されるべきではないか。また、現在の日本の行政・司法制度のすべてを経ても不認定となった難民申請者について、その国外退去(または何らかの在留特別許可)をいかに確実なものにするかという未解決の問題もある。

また、難民の受入れ問題は、入国・在留許可だけの問題ではない。受け入れられた人々を国の責任として日本社会に包摂する策を講じ、彼ら・彼女らの早期の社会的・経済的自立を図らなければならない。「入口問題」から「出口問題」への転換だ。今までの出入国管理に加えて在留支援の責任が入管庁に与えられたことは、その問題意識の表れだが、管理中心の政策を続けてきた入管庁が、受け入れられた人々の側に立った支援(現金給付、日本語教育、就労支援など)を効果的にできるかはまだ分からない。

国民的対話と合意形成に向けて

このような問題に対しては官民、産学が協働して解決策を探さなければならないが、新しい動きもいくつかある。まず、世論の変化がみられる。2020年12月以来の、筆者も一部絡んだ3回のインターネット意識調査では、「日本はもっと多くの難民を受け入れるべきだ」という意見が増え続け、50%を超すようになった。「難民問題は海外で起きていることだから自分とは無関係だ」という意見に比率は下がる傾向にあり4分の1以下になっている。日本社会に難民に対する関心と支援意欲が強まっていることが見える。

難民問題についてはさまざまな意見があるが、入管庁と支援団体の間の対立が目立つ。入管庁とUNHCR駐日事務所の関係がぎくしゃくしていることも懸念されるが、UNHCR駐日事務所の次の駐日代表に日本人の伊藤礼樹氏が就任することが最近発表された。シリアやレバノン事務所代表の経験のある同氏は、日本の状況も知っているから、UNHCR駐日事務所と入管庁の連携が改善し、共通課題の解決が進むことが期待される。

前入管庁長官の佐々木聖子氏を中心にしたグループによる、入管政策を巡る幅広い政策対話のための、多様な参加者によるプラットフォームの立ち上げの動きもある。若者を中心とした難民支援も、伴走しつつの就労支援など、今までにないユニークなものが増えている。

2023年12月には「国連難民グローバルコンパクト」のフォローアップである「第2回グローバル難民フォーラム」がジュネーブで開催されるが、日本はコロンビア、フランス、ヨルダン、ニジェール、ウガンダと並んで共同議長国を務めることになっている。日本の難民政策が変わることへの期待と、またG7議長国としての日本に対する期待もあるのであろう。そのフォローアップ会議では、日本の官民の様々な動きが報告されることになる。

これらの国内の動きは、難民政策をめぐる国民的な対話と議論が生まれる可能性を示している。The Tokyo Postの役割は変わるが、「みんなで創る合意形成プラットフォーム」の精神、分断を越えての対話の精神は、難民問題においても続くだろう。

新しい時代が始まった。

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