難民認定関係者(法務省、裁判所..)も読むべき本だ。岩波書店、3200円
2018年に東京地裁であった判決では、シリアからの難民申請者の訴えを、法務省・裁判所が「デモに参加したからといって必ずしも政府から迫害を受けるおそれがあるとはいえない」と退けた。
その判断がいかに現地での実態からかけ離れたものであるかを浮き彫りにする一冊がこの本(他にもある)。当時(今)のシリアでは、反政府デモに参加したというだけで、撮影した映像をもとに(または密告情報により)参加者を拘束するために治安部隊が夜間早朝に家を襲い、拘束し、拷問して、そのまま処刑することすら珍しくなかった。50万人近い死者/行方不明者、600万人近い難民はそのような中で生じた。
東京の霞が関の桜田通りを、警察に守られながら平和的に進むデモ隊を見慣れている法務省・入管の難民調査官や俗世を離れて暮らす裁判官は、世界には反政府デモに参加しただけで迫害を加える政府があるなどとは想像すらできず、「そんなことはあり得ない。あなたはうそをついている」とばかりに申請を退けたのだろう。地獄と化したシリアからの難民申請者81人中、認定された者は15人だけ。
年間の難民認定数が30人から40人という、国際的にはほぼ無意味な日本の難民認定制度はそのような「常識」に支えられている。日本の常識は世界の非常識の一例だ。そんな日本の難民認定制度は(真の)難民からは信用されていないから、申請する者も少ない。現状では「難民を守る制度」でなく、「難民から守る制度」になっている。難民条約は難民を排除するツールになった。
他方で、政府・法務省は外国人労働者の10万人単位の受け入れに奔走している。難民と外国人労働者(移民)への姿勢の180度の違いはめまいがするほどだ。
難民認定の審査をするには現地の状況、人々が逃げ出さざるを得ない文脈をよく理解することが絶対必要だが、日本の法務省や裁判所はそれができない。難民条約を何十回読んだところで難民となった人々の恐怖感と不安は理解できない。難民調査官や裁判官が紛争地を訪れ、自らの目と耳で確認するのが一番だが、そんなことを言い出す勇気がある者はないだろう。であればせめてこの本を読んで、世界の迫害と紛争について理解を少しでも深めてもらいたい。
もちろんこの本は一般向きの本だ。読むのがつらいほどの残虐な行為の描写や証言があるが、それがシリアだけでなく、アフガニスタンでも南スーダンでもミャンマーでも起きている、ということを知ることには意味がある。
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