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朝日新聞論説室の劣化

 入管法改正を巡る朝日新聞論説委員による「天声人語」(特高と入管)が衝撃的だ。のっけから特高警察の拷問を持ち出し、特高の体質を引きずった入管が、ウイシュマさんを「人権の空白地帯」で過酷な環境において劣悪な扱いをした挙句に「命を奪った」と続け、読者に「入管=特高」、「ウイシュマさんは入管の迫害で殺された」という印象を残す書きっぷりだ。

 そもそも特高と入管に組織的・人的つながりがあった証拠はあるのか?UNHCR駐日代表時代に、また法務省の出入国管理政策懇会の委員として入管の収容所を何度も視察した者として、さらには1976年~77年に1年間とはいえ入管に籍を置いた「元入管職員」としては、これを書いた論説委員は、収容所の実態について伝聞情報だけを元に、入管を貶めるためにこのコラムを書いたと言わざるを得ない。

 産経新聞にも報道されたが、手の付けようがない被収容者が多数いることは事実だ。恐喝などの罪で懲役2年6月の実刑判決を受け、仮放免中に強姦罪で懲役5年など2度の罪を犯し、4回目の難民申請をしている者。強制わいせつ致傷罪で懲役4年の実刑判決を受け、仮放免中に強姦致傷罪で懲役6年の実刑判決を受けたが、現在2回目の難民申請をしている者..。そのほか、 裁判の判決で「巧妙に仕組まれた常習的・職業的・狡猾な詐欺を行った」と断罪された者、「覚せい剤取り締まり法違反」などで懲役3年8か月の有罪判決を受けた者など、数百人が帰国を拒否して難民申請をし、送還を逃れて入管施設に収容されている。入管の一線の職員は、時として粗暴な行動に出るそのような者たちと日々向き合っている。被収容者の全員が天使のような外国人ではないのだ。そうであればそもそも収用などされない。

 ウイシュマさんについても、収容前の彼女の行動に全く落ち度はなかったのか?彼女はなぜ帰国しなかったのか?なぜ投薬を拒否したのか?名古屋入管の処遇職員や看護師たちは、原因がわからないまま数か月にわたり仮眠時間を削って介抱してきたという。調査中間報告にもその一端が垣間見られる。具体的な証拠も示さず、そのような職員たちがあたかも殺人に加担したような書き方をする論説は、朝日新聞による人権侵害であり名誉棄損だ。説明責任を負わない上から目線の「天声人語」に全国の多くの入管職員は悔し涙を流しただろう。

 朝日新聞を読み始めたのは小学生のころ、今から60年以上のことだ。60年安保条約改定を巡って、朝日新聞の記事を読んで安保改定賛成の父親と幼い議論をしたのが懐かしい。早くして亡くなった父親との唯一のちょっと大人びた議論だった。今にして思えば、朝日新聞の論説を引いて改訂反対を主張する僕に、父親は困ったり嬉しかったりしたのだろうと思う。

 とまれ、かっての朝日新聞の権威と見識は大変なものだった。朝日の論説委員と言えば、俯瞰的に問題を捉え、深く原因を追究し、解決への道筋を示す日本のオピニオンリーダーだった。今やそんな姿勢も影響力も消え去り、朝日新聞の読者だけに向けた「エコーチェンバー」的記事を書いている。「求められるのはむしろ、一人の人間として尊重される法制度だ」などといった陳腐な結語は中学生でも書ける。論説室には「知性の空白地帯」があるのではないか?

 その点で、外国人の人権と国家の利益の相克という難しい問題を意識した日経新聞の社説の方が、日本のオピニオンリーダーとしての姿勢と見識を維持し、解決の方向性も示している。両紙を読み比べることで、長期に亘る朝日新聞の凋落の原因が見えてくるのではないか。「求められるのはむしろ、朝日新聞の見識を取り戻すための論説室の改革だ。」

 ちなみに、事ここに至っては、仮にそこに着替えシーンなどプライバシーにかかることがあっても、入管はウイシュマさんのビデオを全面開示すべきだ。開示しないからあれこれ憶測も生まれる。入管にとってどんなに都合の悪いことも、粗暴な収容者の実態についても、もっと積極的に開示すべきだ。20人近くが死亡したという報道についてもその経緯を説明するべきだ。「保安上の理由」とは何なの説明もすべきだ。今回の事件は、秘密主義的な入管の組織文化を変え、政策官庁として世に出る良い機会でもある。

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