自国で迫害を受けて外国(日本)に逃げようとする場合、いくつもの「カベ」がある。第一は「資金のカベ」。親族などがお金を集めて逃がす場合でも、第二の「出国のカベ」がある。国境で拘束される危険がある。ミャンマーとタイ国境地帯には、出国の機会を求めて隠れ住むミャンマー人活動家が多数いるという。密航業者などの助けでなんとか出国(=入国)しても、さらに日本に行く場合には第三の「ビザのカベ」がある。日本入国のためのビザ発給には、日本の保証人が滞在費や帰国費用を出すこと約束しなければならない。日本に限らず、先進国は紛争国出身者に対してビザを出さない。日本に来てからの第四の「難民認定のカベ」の厚さ・高さはよく知られていて、数年かかる可能性がある。
これらのカベを乗り越える一つの方法が、留学生として来日する方法で、日本はその点で一つの道を示している。 日本政府は2017年から5年間でシリアの若者150人(家族を含めれば300人)を、難民認定制度をバイパスし、留学生ビザを出して大学院レベルで受け入れている。
注目すべきは民間主導の受入れだ。NPOであるPathways Japan(https://pathways-j.org/)は、シリアやアフガニスタン、ウクライナからの、実質的には難民である若者を募集し、身元保証人になって日本各地の語学学校に紹介している。協力する日本語学校は授業料を免除し、学生は週28時間以内のアルバイトで生活費を得る。日本語の力がついた段階で、日本留学試験(EJU)などを突破できれば、大学に進学する道が開ける。Pathways Japanに支援された若者は過去5年で30人を超す。
その後の進路はどうなるか?一つは国際基督教大学(ICU)の難民留学生制度(https://www.jicuf.org/ssi/)でICUに進学することだ。同プログラムはPathways Japan と連携している。
もう一つは、UNHCR駐日事務所と国連UNHCR協会が 2007年から実施している難民高等教育事業(RHEP)だ。これは日本で難民認定を受けるか、人道的在留特別許可(補完的保護)を受けるかした者(とその子供)に開かれている。今まではインドシナ難民やミャンマー難民の2世が多かったが、最近はPathways Japanルートで応募する者も出ている。RHEPには現在14の大学が参加しているが、RHEPの下で推薦された学生を受け入れた大学は、入学金や授業料を免除し、10万円ほどの生活費も支給する。留学生は、足りない分はアルバイトで賄う。現在のところ、すべての大学の合計受け入れ枠は20人前後だ(今年の応募は締め切られ、選考中)。
このようにして大学を修了すれば、さらに大学院に進学する者を除き、「技能・人文・国際」の在留資格で働き、在留できる可能性が開ける。現在のところ、RHEPは法務省から難民ないし補完的保護を受けた者に限られるが、UNHCRがその制限を緩和すれば、Pathways Japanなどの事業と連動して、さらに多くの若者を救うことができる。
留学生ルートで日本に来た難民の若者たちは、祖国での危険のほか、第五の「日本語のカベ」などの試練を乗り越えてきているので、日本人の同年代の若者に比べてはるかに見方が広く、成熟している。
RHEPに参加する大学にとっては、人道支援に参加する大学という評判のほかに、日本人学生が難民学生から大きな刺激を受けるという教育的効果もある。人道支援と大学の活性化をもたらすのだ。RHEP参加校が年々増えているのはその表れだろう。
難民の留学生としての受入れは、現在のところ国連、大学、NGOなど民間主導でなされていて、数は年に数十人と限られているが、今後はアフガニスタン退避者やウクライナ避難民からの応募も増えるのではないか。
ただ、留学生にとって日本定住のカギとなる「日本語のカベ」はとても高い。民間のイニシアティブを政府が日本語学習などの面で支援するなら、もう少し大きな規模の、官民一体での日本独自の難民の受け入れ事業ができるはずだ。
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