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日本は“難民鎖国”を打破できるか 鍵握る戦争避難民の「補完的保護制度」(The Tokyo Post No.3)

政府がウクライナからの避難民を積極的に受け入れることにして、4月までに700人以上を受け入れたことは、「難民鎖国」のイメージの強い中で内外の関係者を驚かせたが、これは日本政府が突然「人道的」になったことを示すわけではない。(滝澤三郎/東洋英和女学院大学名誉教授・UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)元駐日代表)

リンケージ・ポリティクス

今回の決定は、ロシアのウクライナ侵略戦争に対抗する安全保障戦略の一環としてなされたものだ。政府は他のG7諸国とともに、ロシアの銀行のSWIFTシステムからの排除、ロシア政府高官の資産の凍結、8人のロシア人外交官の追放など対ロシア戦略を実行しており、避難民受け入れはその一つの行動だ。

日本と平和条約も結んでおらず、北方領土を占領し続けるロシアは、今回のウクライナ侵略によって、日本にとっての軍事的脅威であるとの認識に立てば、侵略の被害者であるウクライナからの避難民を助けることは、加害者ロシアへ対抗措置の一環だ。人道支援である(避)難民問題が、国家の安全保障問題と結び付けられる(政治学でいうところの)リンケージ・ポリティクス(連結政治)の一例だ。今回はしばしばある「国家の安全を守るために難民を排除する」のでなく、「国家の長期的安全のために避難民を受け入れる」ことになっている点が異なるが、国際政治と難民問題が結び付けられている点は共通だ。通常、(避)難民に対しては人道的考慮を前面に出した自律的な政策が取られやすい。

今回の決定が外務省や法務省による下からのボトムアップでなく、岸田総理からのトップダウンでされるという異例の形をとったのも、受入れが人道的考慮(ローポリティクス)以上に安全保障問題(ハイポリティクス)の視点からなされていることを示している。

補完的保護制度の必要性

このような傾向はこのところ目立つ。昨年のミャンマー政変の後に3万5,000人の在日ミャンマー人に対して一律で在留の延長を認めたことも、アフガン政変後に500人ほどの対日協力者の受入れが出国以前から決められていたことも、外務省や入管庁だけでは決定できず、政権トップの主導ないし指導が必須だ。国際社会が不安定化し、いつどこから大量の(避)難民が出るかわからい時代、今後も同様な対応が取られることが増えるかもしれない。

ゆえに、避難民の法的な地位、在留資格の安定化が必要になる。日本の現行入管法には今回のような「戦争避難民」に対する法的資格がない。一律に「難民」とすべきだとの意見があるが、1951年の難民条約は「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、または政治的意見」という5つの理由で迫害を受けるおそれがある者を難民とし、今回のように「戦争」を理由とするものは、それだけでは難民とはしない。そもそも、来日して難民認定申請をしない段階で法務大臣が難民だと宣言することは、難民認定制度を無視することになる。

実は、「補完的保護」のアイデアは急に出てきたのではない。2013年に第6次出入国管理政策懇談会のもとに設けられた「難民認定制度に関する専門部会」(筆者も委員だった)は、2014年12月に最終報告を出したが、そこで紛争避難民などを救済するための「補完的保護」制度の創設を提言している。もう一つの主要提言は「難民認定ガイドライン」の策定だ。

遅まきながら、「戦争避難民」や「紛争避難民」の法的地位について、政府が昨年に国会に提出した入管難民法改正案には、避難民を難民と同じように処遇をする「補完的保護対象者」制度の創設があった。「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、または政治的意見」という理由以外の理由で、例えば今回のようにロシアによる無差別攻撃という形の「迫害」を逃れてきた者を「補完的保護対象者」と認定し、在留資格「定住」を付与するなど難民と同様の処遇をする制度だ。入管法の廃案でそれは実現しなかったが、改正できていたなら、今回のような事態においては、また昨年のアフガンからの避難民についても、難民申請・避難民申請を行い、審査によって全員が難民なり補完的保護対象者と認定されただろう。

現在、短期の在留資格で入国したウクライナ避難民は就労可能な「特定活動」への在留資格への書き換えを進めているが、法改正がされるまでの間、在留資格については3つの道がある。


①ウクライナ人への優遇措置のもとで「特定活動」のまま様子を見る。

②「留学生」など他の在留資格への変更を求める。

③難民認定申請を行い、そのプロセスの中で「人道的在留特別許可」を得る。


③については、「特定活動」の資格で十分な支援が期待できるなら、あえて難民認定は求めない人が多いのではないか。ウクライナ避難民は、成人男性が出国を許されないため、90%が女性と子供であり、家族が引き裂かれた境遇にいる。EU諸国に避難したウクライナ人は600万人だが、100万人以上が戦闘の続く危険なウクライナに(一時)帰国しているという。ウクライナに残った夫や父親が心配なのだろう。

難民認定は一般的には定住・永住を想定して行われるが、女性と子供だけで日本に難民として暮らすよりは、停戦が合意されるなど、事情が許せば一刻も早く帰国したいという思いが強いのではないか。

もちろん、難民認定を希望する者には道が開かれているので、難民条約の条件を満たして難民と認められる者が出る可能性はある。その場合は、(可能であれば)夫や父親を呼び寄せることができる。

政府は、8年前の「難民認定制度に関する専門部会」の提言に従って、「補完的保護対象者」の創設を急ぐべきだ。その際に検討すべきは、「補完的保護」内容の具体化、透明化だ。昨年の入管難民法改正案はどのような場合に「補完的保護対象者」と認定されるかの詳細が示されていない。同時に、遅々として進まない「難民認定ガイドライン」の早期完成と公表も必要だ。ガイドラインは「補完的保護」がどのような場合に出されるかも示すべきだろう。

支援体制の強化も

また、避難民受け入れ後の支援体制の強化も必要だ。避難民について、首相の指示のもと、官房長官を議長とする省庁間連絡調整会議が設けられ、各省庁が住居、就労、教育などの面での手厚い支援を実施しているが、制度設計に先立って受け入れが行われたため、各省庁は対応に大わらわだ。たまたま、2018年に「特定技能制度」が導入されるとともに「外国人材受け入れ・共生のための総合的対応策」が決定され、入管庁が総合調整に責任を負うことになっていたため混乱は最小限に抑えられたが、今後は(避)難民の支援も視野に入れるべきだろう。

「補完的保護対象者」制度の創設は日本の難民政策の大きな変更となる。1951年難民条約の限界が指摘されて久しいが、「補完的保護対象者」制度はそのような限界を超える可能性を持つ。1982年に難民条約に加入して難民認定制度が作られてから今年で40年、ウクライナ避難民をめぐる日本の積極的姿勢は、「難民鎖国」を打破する契機になり得る。

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