この7~8年だろうか、国公私立を問わずまた超難関大学を含め、入試で学校推薦や総合型選抜をする大学が増えている。それはとてもいいことだ。僕のところにも、難民や移民問題についての小論文を準備したり、実践的活動をしている高校生が相談に来る。今までに何人もの高校生(女子が多い)が難しい選抜を突破して大学に進んだ。
そんな高校生の多くは、在外経験があったり研修旅行などで途上国の現実を見たことがきっかけになって、日本における難民問題に関心を持つのだが、手始めにネットで資料を集めると入管収容批判がいっぱい出てくる。そのため「難民問題に関心があるので入管の収容所に行ってきました」とか、中には「難民をいじめる入管法改悪を止めるにはどうしたらいいか分からず、行き詰まっています」などと悩む生徒も出てくる。素直な彼女たちはネット情報に頼って「難民問題=収容問題」、「収容問題の根源は入管庁だから入管庁を変えるべきだ」と、短絡的に今はなきNHK「青年の主張コンクール」みたいなことを主張するのだ。
他方で入管庁は一般に向けて自分たちの見解を全く主張しないので、「入管庁=悪」のイメージは広く浸透している。入管法を巡る「宣伝戦」において入管庁は明らかな敗者だ(なぜ入管庁が積極的に発信しないのかは行政学上の問いだ)。今回の入管法改正案は国会の政治力学からして可決されるだろうが、仮にそれができなかった場合、その一因は入管庁の説明能力(意思)の不足にあると言えるだろう。
僕は、高校生たちに、「3つの目」で物事を見るべきだと諭す。「虫の目」は現場で物事の細部を凝視するミクロの視点で、特定の個人や出来事にフォーカスする。「ウイシュマ事件」のビデオ開示問題の追及などが典型例だ。
「鳥の目」は大所高所から物事の全体を俯瞰するマクロの視点で、日本の難民政策とその構造を俯瞰的に捉えることなどがある.日本はウクライナの支援のため一兆円を出し、数百万人の国内避難民などの民生支援をする。それはポーランドなどに避難する必要を減らす。これは大きなインパクトのある難民政策だが「虫の目」には決して見えない。
「魚の目」は、物事の動向、トレンドを見る視点で、例えば国際社会で難民保護と排除が歴史的にどう進んできたのかを把握して分析することがある。今、欧米諸国では難民条約を破って難民を国境で追い返す流れができている。日本は逆に難民の受け入れを増やしている。これをどう考えるか?
難民問題と収容問題は接点はあるが別の問題であること、「虫の眼」的に収容問題だけに焦点を当てるだけでなく、「鳥の目」や「魚の目」で見た上で日本のすべきこと/できることを考えることが大切だ。そう言って僕は「難民を知るための基礎知識」をプレゼントする(この本はいずれ改訂される)。
本当に重要な問題は何か、なぜそれが問題なのか、だれにとっての問題なのか、問題の規模はどのくらいか、それは地球上のどの国にあるのか、その原因は何なのか、どんな解決策/緩和策がありうるのかを社会科学的な目線で考えることができる高校生は、大学側も欲しがるし、大学入学後も勉強と思考を続け、より多くの難民や避難民を助けることができる人材になるだろう。
難民の保護は法律と人道支援だけでは足りず、(国際)政治的なリアリズムと経済的な発想が必要だ。暖かい心だけでなく冷静な頭も必要だ。そのような複眼的な視野を持つ大学生が増えてくれば、日本は難民保護の分野で(少なくともアジアでは)リーダーシップをとれる。
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