朝日新聞の荒ちひろ記者の長野県川上村の陳情についての記事。僕もコメントしている。
日本にいる外国人の数は300万人近いが、全員が何らかの「在留資格」を持っている。日本にいる間に何をしていいのか、いつまで滞在できるかを示したもので、「留学生」、「技能実習生」や「特定技能」など29種類がある。しかし約8万3千人はそのような在留資格を持っていない。いわゆる非正規滞在者、不法滞在者だ。川上村の陳情はいわゆる逃亡技能実習生などを季節農業労働者として雇いたいというもので、「ルールはともかく、なんとかして欲しい」というものだが、それは簡単な話ではない。
非正規外国人の管理というのはどの国でも問題になっているが、問題の規模と対応は国によって異なる。イギリスでは非正規滞在者の統計がそもそもない。Pew Research Centeの推計では80万人から120万人。940万人の外国人の1割前後が非正規滞在だ。国境を越えて人々が自由に移動できるドイツやフランスも似たような状況で非正規率は10%前後だ。アメリカに至っては5000万強の外国人のうち、非正規が1100万人で非正規率は22%に上る。
日本の出入国管理はこの点で突出している。在留外国人290万人のうち非正規滞在者が8万3千人で、その率は2.8%にすぎない。スイスは850万人の人口に対して外国人が250万人いて、厳格な入国・在留管理で知られているが、同国の非正規外国人は約10万人で、非正規率は4%だ。日本の非正規率はおそらく世界で最低だろう。
外国人の受入れには4つの視点・要因がある。①経済の求め、②外国人の権利保護、③社会の不安感、④治安の維持だ。日本政府は2019年に中小事業者(経済)の強い求めに応じて特定技能による外国人労働者の受け入れに踏み切った。同時に治安維持のため非正規外国人の摘発などを維持している。社会の不安感の払しょくと外国人の権利擁護のためには「共生社会実現のための総合的対応策」というものを出した。やむを得ない理由で非正規滞在になった外国人には「在留特別許可」という一種のアムネスティで対応している。この4つの要素のバランスを取りながら「日本の開国」を進めるという困難な仕事をするのが行政と政治の役割だ。
外国人は来て欲しい、しかし安全と安心のためルール(在留資格)は守って欲しい、というのが大方の日本人の感覚だろう。車が全然来ないのに赤信号が青に代わるのをじっと待つ光景に来日外国人はびっくりするが、ルールを守る社会的意識がごく高い日本人には不思議ではない。もっとも守られているルールの良しあしは別だが。
川上村の陳情に対して入管庁が「既存の在留資格の範囲内で対応して欲しい」と返事したのにはこのような背景がある。経済の論理だけでは物事は回らない。人権至上主義も軋轢を生む。クルド人の在留資格問題を含む朝日新聞の記事はそのような広い文脈で読む必要がある。
ちなみに、今週末5月30日の移民政策学会のシンポジウムは、特定技能制度導入2年目の現状と課題ということで政策担当者、受け入れ機関、送り出し機関、当事者、支援団体と多様な立場のパネリストによるプリゼンがある。
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