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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所のあり方を問う(The Tokyo Post No.1)

更新日:2023年7月30日

2021年の日本の難民認定数は過去最高になるらしい。認定されたのは、予想されるようにミャンマーやアフガンの出身者が多いほか、迫害や紛争の続く中国や中東・アフリカ出身者が大半らしい。過去10年ほどの混乱期を脱して、難民認定制度は正常化しつつあるようだ。

アジア初「難民認定ガイドライン」がいまだに公表されない理由

難民認定数が少ないことなどが批判されるなかで入管庁の難民政策は少しずつ改善されている。その一つが「難民認定ガイドライン」で、これは2014年の暮れに出入国管理政策懇談会の下の難民認定制度専門部会が提言したものだ(僕もそのメンバーだった)。数年かけて昨年の秋までにはガイドライン原案ができた。UNHCRのマニュアルやガイドライン、欧米諸国の扱い、先例、判例 などを参照し、ジェンダーなど「新しい形の迫害」も取り入れられている。今まで「闇」に包まれていた難民認定基準を明らかにする点で、またアジア諸国では初の難民認定ガイドラインである点で画期的だ。

このガイドラインは公表されるので、難民申請者にとってはどのような場合に認定されるのか、支援弁護士や支援団体にとってはどのような論理が認定に有利に働くかがわかる。いわば入管庁の「手の内」を明らかにするものだから、難民申請者にとっても有益なものだ。それが未だ公表されないのは、UNHCR駐日事務所が多数の修正を強く要求しているためだと聞く。

一般的に言ってUNHCRの弱さの一つは、原理主義的な立場にこだわり、政治的に可能な妥協ができないことだ。UNHCRは加盟国が作り上げた組織(代理人)であるから、様々な利害を持つ加盟国(本人)の意向と利害を無視してはならない。UNHCR事務局は主権国家である加盟国に指令を出すことはできないのだ。いうまでもなく、国内で政治的対立がある場合、一方に与してはいけない。難民保護の原則を堅持しつつ、それぞれの加盟国の独自の立場も考慮して、今の時点で現実的に何が可能か、という高度な判断をすることがUNHCRには求められる。しかし、数百万人の移民難民が先進国に押し寄せて混乱が生じ、難民問題が人道問題から国際政治問題になってきた中で、UNHCRはそれができていない。

難民締め出しの動きに対しUNHCRが影響力を行使するには

そのためUNHCRの存在感と影響力は下がり、世界中で吹き荒れる難民締め出しの動きに手をこまねくばかりだ。最近に限っても、デンマークはシリア難民の強制送還を開始したし、ポーランドはベラルーシとの間に壁を作って難民条約のノン・ルフールマン原則を公然と破っている。地中海を渡ってくる数万の移民難民もイタリアなどによりリビアに毎年押し戻されている。メキシコとアメリカの国境には昨年だけで200万人の不法移民・難民が押し寄せた。トランプの移民政策を批判してきたバイデンがリベラルな移民政策を取って、移民・難民の期待値を上げたのが一因だ。効果的な国境管理ができないバイデンは苦境にあるが、UNHCRは有効な対案を示さないまま難民保護の視点から批判だけを続ける。

つまりUNHCRは古めかしい1951年の難民条約の文言に固執し、加盟国の悩み(難民保護と国家の利益の両立)に対して現実的な解決策を提示できない。だからその主張は法律家の非現実的な空論と思われ、重要な政策決定の場、政治的な議論の場に招かれもしない。

他方で、日本では外国人労働者の受け入れなど、難民受け入れにもプラスの流れが加速しており、入管庁も難民認定制度と運用の改革を急いでいる。欧米諸国が難民締め出しに動いているのとは逆の動きだ(もっとも、数千数万人を受け入れてきた欧米諸国と数十人の日本では出発点が違うが)。その中で、認定ガイドラインの公表や「補完的保護」の導入などはUNHCR駐日事務所にとっては日本の難民制度を改善する歴史的なチャンスだ。しかし、 昨年の入管庁との「協力覚書」調印にもかかわらず、UNHCR駐日事務所(の保護部)は原理主義的なスタンスを取り、政治的判断と将来を展望した妥協ができないため、建設的な影響力を行使できない。

UNHCR駐日事務所はみずからのスタンスを改めるとき

幸か不幸か日本に残る「国連信仰」のおかげで、駐日事務所の発言は「神の声」のごとく注目されることがあり、それは(意図にかかわらず)政治的に利用されやすい。昨年の入管法改正に際しても、殺人など凶悪犯罪で長期実刑に服した者であっても、難民申請を繰り返す限りは絶対に送還できないという「送還停止効」に例外を導入する条項について、UNHCR駐日事務所は「強い懸念」を示したが、これが立憲民主党など野党や難民支援団体の法改正反対運動に利用され、一部のメディアも大きく報道した。結局、入管法改正案は廃案となったが、UNHCR駐日事務所は結果的に法改正反対運動に深く関わった。それは国際機関としての政治的中立性を損ない、UNHCRの存在意義と付加価値に疑念を抱かせる軽率な行動だった。

問題の原因の一つはUNHCRのカントリーオフィスの人事政策・構造にある。政治的中立性を保証するために赴任してくる駐日代表ら幹部国際職員は、日本の政治・行政状況を深く理解しないうちに数年で他の国に転勤してしまう。現地採用職員には転勤がなく、長期に亘って勤務して難民支援団体などと人的ネットワークを築く。国際職員は言葉のカベもあって現地採用職員に依存せざるを得ないため、後者が大きな影響力を持ち、幹部は本来の役割を果たせない「お客さま」になってしまうことがある。この点で、幹部も含めて全員が数年で異動する日本の省庁とは大きく異なる。

話を戻そう。入管庁の行政文書の一つである「難民認定ガイドライン」の完成の大幅な遅れがUNHCR駐日事務所の視野の狭い原理主義的な介入によるのであるなら、それはUNHCRも参加した専門部会の提言の実行を自ら阻む行動だし、入管庁との「協力覚書」の精神にも反する。

UNHCR駐日事務所は今一度みずからのスタンスと「政治的」な行動を真摯に反省し、いかにして「国際機関としてのふさわしい振る舞い」をするかを考えるべきだ。特に、今年の夏の参院選を前に与野党の政治的駆け引きが強まると予想される中で、UNHCRは党派政治的な動きを厳に慎むべきだろう。

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