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入管法改正を巡る(一部)メディアの影響力低下

今回の法案審議は日本の新聞でも広く取り上げられた。入管庁でメディア報道をモニターしている某氏によると、6月4日~10日の一週間だけで、入管法関係が529件、技能実習が112件、特定技能が91件あったという。大半が時事・共同通信の提供した記事や社説を掲載したものであり、同一日の一紙でも4~5件の記事を掲載することもあったというから、「実数」はかなり少ないのだが、それでも多いと言える。今週になって報道は激減した。

掲載数の順番は、東京新聞>朝日新聞>毎日新聞>読売新聞>日経新聞>産経新聞。東京、朝日、毎日などいわゆるリベラル系・左翼系はウイシュマ事件など個々のケースを取り上げて政府案批判をすることが多いのに対し、日経、読売、産経は法案内容を俯瞰的に紹介するものが多く、論調は中立的。

過去2年間、東京、朝日、毎日、共同通信はウイシュマ遺族姉妹を巡るストーリーを中心に「入管法改悪」を批判する報道を続けてきた。数十人の街頭デモも大事件かのように大きく報じ、支援団体の機関紙的役割を果たした。このような「報道キャンペーン」にもかかわらず、「入管法改悪」は実行されこれらメディアによるキャンペーンは失敗した。つまり法改正への影響力はなかった。なぜか?

① 「ウイシュマさんは可哀そう」といった属人的で煽情的な記事が多く、彼女が来日し、不法滞在となり収容されるに至った経緯を追って、日本における不法滞在者を巡る背景・文脈を分析するという大局的な視点はなかった。添付の毎日新聞の記事も半分は写真で見出しは「命守って」と煽情的だ。あたかも改正入管法が命を守らないかの如く。支援団体が「目の前にいる1人の人権を救う」姿勢は倫理的には正しいが、一国の政策は「目の前にいない多数の人権」や「国民の人権」も考慮するもの、今だけでなく将来を見据えたものであることを無視している。

② 「強制送還は死刑執行ボタンを押すことになりうる」といった表現を発言の前後の文脈から切り離してセンセーショナルに取り上げる。他方で、送還に先立って行政(入管庁)と司法(裁判所)が少なくとも2度にわたって「この人は難民ではない」、つまり帰国しても死刑などにはならない、と判断したことは無視する。日本には難民制度がないかの如く。自分たちの主張に合うことは報道するが、そうでないことは報道しない機会主義的な姿勢は「報道の政治化」で「公正な報道」とは縁遠い。

③ 「国際基準」とか「国連」という言葉が出てくると、それらが絶対善であるかのように扱い、委縮し、思考停止してしまう。日本以外の世界中が「国際基準」を守っているかの如く報道する。そもそも単一の「国際基準」(イメージ的には国連憲章)は存在しない。仮に存在しても守られていない。例えば難民法は「こうあるべき」について定めるが、それは現実と一致しない。アメリカを始め欧米諸国の難民を巡る「現実」はひどいもので、難民申請すらさせずに追い返すことが横行している。日本は法律はしっかり執行するので「法と現実」のギャップが小さい。リベラルメディアは海外駐在員も少ないため激しく変わる国際情勢に疎く、「国際基準」と「欧米の現実」に大きなギャップが生じていることを認識できず、当然その原因の解明ができない。「日本の現実」を教科書に書いてある「欧米の法律」と比較して政府批判をするだけだから、政策担当者に無視されてしまう。改正された「日本の法律」を「欧米の現実」と比べれば、前者のほうずっと進歩的だ。

④ メディアとしての基本的な問題は、仮放免者などの言い分を裏付けなしにそのまま流し、政府側の言い分はほとんど聞かないことだ。一方的な指弾がそ報道の正当性を失わせる。もっとも、情報をほとんど出さない法務省・入管庁にも非があるから、この点はメディアだけを責めるわけにはいかない。法務省・入管庁は透明性と説明責任の大幅な強化が必要だ。

リベラル系メディアは、今回のキャンペーンの失敗を認め、報道姿勢を考え直すべきだが、残念ながら今後も「悪いのは政府」で「我々は正しい」と言い張るだろう。またはこの問題の「賞味期間」が終わったと判断して報道しなくなるだろう。そして影響力(と購買部数)はさらに低下する。

添付は毎日新聞6月10日の記事。僕のコメントも申し訳程度に載っている。

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