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入管法改正の政治力学

入管法改正案の審議がまもなく始まる。2年前のように廃案になるか、政府案が無修正で通るか、政治力学の視点から予想してみる。

入管庁は、2014年の難民問題専門部会の提言に従って、①補完的保護の導入、②難民認定ガイドラインの策定、③難民制度誤用濫用の抑制、④難民認定担当者の能力向上、の4つの柱からなる制度改革を進めてきた。今回の法案はその集大成と位置付けられる。

ただし、今回の改正案も、前回と同じく③に力点が置かれている。重大犯罪を犯したにも関わらず送還できない問題や、仮放免中の逃亡者が増えていることは、今後、外国人労働者の大量受け入れを図る政府にとっては懸念事項だからだ。反面で、難民保護に重要な①、②、④についてはあまり言及がない。支援団体もなぜか関心がないようだ。

政府案は、他省庁との調整、内閣法制局の審査、与党の政務調査会法務部会での3回の審査、総務会の承認、閣議承認を経ていて、党議拘束もあるから反対する与党議員は出ない。改正案が2度も廃案になることは政府与党にとっては大打撃だから、相当の覚悟を持って国会審議に臨むだろう。法案の撤回はあり得ない。今年は、2021年のような総選挙がないことが政府与党には有利。

入管法改正に反対する(一部)市民グループや(一部)メディアは、「法案提出反対」、「入管法改悪反対」、「廃案一択」などの非妥協的スローガンを掲げて2年前と同じ運動をしている。2021年の国軍クーデターを受けての1万人を超す在留ミャンマー人への在留特別措置、アフガン避難民の150人近い難民認定、2300人を超すウクライナ避難民の受け入れなど、昨年の総計1万3千人の庇護と、今後の彼女や彼らの定住支援問題はすっぽり抜けているように見える。

支援団体の戦略の弱点は、「廃案以外なし」で、「先の展望」と「落とし所」を示せないことだろう。今回の改正案が通らなければ、長期収容など皆が不満を持つ現行法がこの先もずっと続く。「改悪反対」は「現行法維持賛成」ということだ。「野党の改正案がある」といっても、国会での与野党の勢力分布からして、野党による議員立法が成立する可能性はない。野党が政権を取れば別だが、それはいつのことか。

「日本は難民や避難民を保護すべき」という原則論では一致するものの、その前提となる事実認識は大きく異なる。毎年、数千人(2017年は2万人弱)の難民申請者に対処する入管庁が見る「現実」と、支援団体が注目する80人ほどの長期被収容者(送還忌避者)を巡る「現実」は全く別のものだ。それは「国家の安全保障」と「人間の安全保障」の相剋とも言えるが、入管庁と支援団体の相互不信感と断絶は極めて強く大きい。入管法がどうあるべきかについて共通の見解はない。

そんな状況下で仮にできることがあるとすれば、入管庁がもっと積極的な情報公開を進めて、国会だけでなく国民に対する説明責任を果たすことだろう。「難民認定ガイドライン」がまだ公表されないのは不可解だし、昨年の難民統計もまだ出ていない。

支援団体は、「難民認定率は0.7パーセント」など過去の統計にしがみついたり(2022年の「認定率」は数十パーセントになろう)、理想論に基づく「日本の制度はダメ」、「入管庁は悪」といったスタンスを超えて、政府の抱える問題をどう解決するかについての実現可能な対策を出すべきだ。入管法改正を阻止するには、5万人ぐらいが実際に(オンライン署名でなく)国会を包囲しないとダメだろう。

入管庁も支援団体(野党)も譲歩する姿勢がないと、今回の国会審議も2021年と同じく不毛のものになり、結局は「政治力学的決着」になろう。

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