初代長官だった佐々木聖子氏は、30年前の30歳の時に書いた「アジアから吹く風:いま外国人労働者のふるさとは」で、今でも通用する知見を披露していて、学会のシンポジウムなどにも快く出てくれた。入管施設への収容について「全件収用主義を不退転の決意で取り組む」と述べるなど、入管トップとしては極めてリベラルな考え方の持ち主で、入管の組織文化の改革にも熱心だった。
新長官の菊池浩氏は、2013-2014年ごろの「難民認定問題にかかる専門部会」があったころ入管局総務課長だったので、難民制度改革(例えば今話題の補完的保護制度導入など)についても詳しいと思われる。一般に検事出身の入管トップは、治安重視の傾向があるように見えるので、菊池長官の下で入管の姿勢が厳しくなる可能性はあるが、実際どうなるのか、それはわからない。
もっとも、出入国在留管理政策は、近年では政権上層部で決定されることが増えているため、法務大臣の意向も大きい。現法務大臣は技能実習生問題に取り組んでいる。「特定技能制度」は安倍元総理が始めたし、今年のウクライナ避難民の場合も首相自らが受け入れを決めた。秋の内閣改造で誰が法務大臣になるかも今後の入管政策に影響するだろう。
秋の国会に再提出されるだろう入管法改正案の準備の中での長官交代はやや意外だが、それが法案審議に影響するのかも不透明。ただ、昨年5月の国会の入管法審議で、野党の要求もかなり入れた「修正合意案」を最後の段階で野党が蹴って「幻の修正合意案」と消えたことや、先の参院選で野党が敗北したことを考えると、今秋の入管法審議はリベラル派にとっては厳しいものになるのではないか。
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