入管法改正の必要性につき、政府側の問題意識を報道するメディアはごく少ない。昨年の秋、NHKが入管収容所の現場の苦労を報道した時には組織的に大量の抗議ファックスがNHKに送られた。それを見聞きした記者の中には、この問題について触れることを避けようと思った者もいるかもしれない。報道の萎縮を狙った威圧行動だったのだ。そのような歪んだ言論空間では珍しい報道と言うか、さすが日経と言うか、良い記事。
添付の記事で、カットしてある最下段には、国外退去を命じられたにもかかわらず拒否する「送還忌避者」が3200人いて、そのうち1100人には前科があると書いてある。さらに付け加えれば、3200人の中の1600人が難民認定申請をしており、1100人の前科者のうち400人が難民申請をしている。前科には薬物関係が671件と多いが、強盗59件、性犯罪38件、殺人も8件ある。
難民や難民申請者が犯罪を犯すことはまれだから、前科を持つ者が、難民申請をすれば絶対に送還できないという現行入管法の盲点を利用していると見るのが自然だ。一部メディアが描くように「難民が強制送還される」のではなく、「送還されるべき前科者が難民認定申請をする」のだ。これを正すのが入管法改正の主な狙いだ。
フィリピンの入管収容所での「ルフィ」の「長期生活」を見ると、収容施設での問題は、日本だけではないと分かる。
まったく報道されないが、昨年の「EU基準での難民認定率」は非常(EU並み)に高い。「認定率1%以下」というのは過去の話で、しかもそれには理由がある。昨年のミャンマー、アフガニスタン、ウクライナからの難民・避難民の受け入れや在留特別許可は1万3千人になる。これは28年かけて受け入れたインドシナ難民と同じ数字だ。コロナで中断されていた難民第三国定住事業も再開した。アジアで初の「難民認定ガイドライン」もできている。ポーランドなど遠く離れた国にいるウクライナ避難民支援には、財政難の中でも数百億円という巨額の資金協力がされて、数十万人の難民や避難民を助けている。
このようにして日本がいろいろな形で難民保護のための国際的責任と負担の分担を果たしている事実をも報道するのがメディアの役割ではないか。複雑な難民保護の問題を収容・送還問題、さらにはビデオ開示問題に矮小化し、そもそも日本にいるべきでない被収容者を美化し送還を止めさせようとする一部メディアの党派的報道姿勢は見苦しい。
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