2月に始まったロシアの侵略戦争の中で、技術者や金持ちなど数十万人のロシア人はすでに欧州諸国に逃げたようだが、プーチン大統領が先週に発表した部分的動員令を受けて、徴兵年齢の成人男子が徴兵を恐れてバルト諸国やフィンランドなどに脱出しているという。慌てたロシア政府は、出国を禁止する方向らしい。
もし彼らが日本に来て庇護を求めたらどうなるか?政府はどう対応するか?国民の反応はどうなるか?
ロシアと日本の間に航空便はないし、ビザ発行は制限されているが、北朝鮮と違って距離は短く、漁船など船や燃料もあるだろうから、来ようと思えば来れるだろう。モンゴル経由などで来日するとか、既に日本に滞在しているロシア人からの難民申請が出てくることもあり得る。
もっとも、あえて日本に逃げたいと思う者がいるかは分からない。毎年数万人の亡命者が出るロシアだが、日本に来る者は(ほぼ)ゼロ。ロシア人にとって、日本は逃避先ではない。
国家は、軍事目的のために軍務を国民に義務付ける権利を持つから、一般的には、徴兵忌避に対する処罰は難民条約にいう「迫害」には当たらない。UNHCRのハンドブックやガイドライン10号もそう述べている。たとえば、徴兵制度がある韓国から徴兵忌避者が逃げて来て、「帰国すれば処罰される」と主張して難民申請をしても、どの国も認定しないだろう。徴兵制度が崩れてしまうからだ。
日本政府は、ウクライナ避難民を高度な政治的判断で受け入れたが、ロシア避難民・難民を同様に受け入れる(例えばフィンランドに逃れた徴兵忌避者を航空機で受け入れる)ことはないだろう。政治的に見て、反プーチン勢力が国内で勢いを増した方がいいからだ。
入管庁は難民認定申請があっても、難民条約の定義には当てはまらないとして認定はしないだろう。
ただし、ロシアに送還すれば懲役15年とかの過酷な処罰もあると言われる。「プーチンの侵略戦争/戦争犯罪に反対だから兵役を拒否したため狙われている」といった主張がなされると「政治的意見を理由にした迫害の可能性」が出てきて、難民認定もあり得る。
当面は、ウクライナ避難民と同じように、一時的庇護として、就労可能な「特定活動」の在留資格を与えて様子を見るのではないか。難民に準じて処遇する「補完的保護」制度があればそれに該当するケースだろう。
社会的にも、ウクライナ避難民に対する「支援ブーム」ともいえるような国民的な歓迎は期待できそうもない。ウクライナ避難民の大半が女性子供であり、侵略の被害者であるのに対し、ロシア人徴兵忌避者は侵略国、加害国の成人男性であり、被害者とみなされるよりも「逃げないでプーチンに対して抵抗すべきだ」という批判が避けられないからだ。ウクライナの男たちが出国を禁じられ、国に残って戦っているのに、侵略した側の男たちが難民として外国で保護されるとすれば違和感が出るが、難民条約はそのような背景は無視する。
徴兵忌避者が流れ込んでいる欧州諸国の対応は分かれている。バルト3国やポーランド、フィンランドは「安全保障上のリスクが大きい」として、観光ビザでのロシア人の入国を制限し始めた。バルト3国は、かってソ連の一部であり、多数のロシア系住民がいて、さらにロシア人が増えることに国民が不安を持っているという。「ロシア人を守る」という口実でロシアが介入する可能性や、流入者にロシアのスパイや工作員が混ざっている可能性を否定できないからだ。
他方で、ドイツは、下の記事にあるように受け入れに前向きだ。「深刻な弾圧を受ける恐れがある脱走者は原則、ドイツで国際保護を受けることができる」。つまり徴兵忌避に対する過酷な処罰の可能性は難民と認められる理由になっているのだ。2015年に、メルケル前首相が「シリア難民は全員受け入れる」と宣言したことを思い出す。それを聞いたシリア人らの流入が加速して国民の反発が強まり、半年ぐらいでこの宣言は撤回された。
このような欧州諸国の異なる対応に見られるように、「難民受け入れ」は単なる法的な「難民認定」問題ではなく、政治と社会、そして経済も絡んだ大きな問題なのだ。
何でもある今の世の中、ロシア人亡命者が来た場合の対応は検討しておくべきだ。これは、台湾有事の場合に与那国島などに押し寄せる可能性のある台湾人についても同様だ。
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