難民支援団体に限らず、日経新聞など日本の大手メディアも「日本の難民認定率は1%以下で…」という枕詞で始まり、政府批判で終わる記事を書くことが多い。しかしこの「難民認定率」は、分子と分母に何を入れるかで大きく変動するという技術的問題があるだけでなく、政治的に利用されやすい。そして変わりつつある日本の難民認定の姿を現していない。
日本で「難民認定率」とされるものは、「条約難民と認定された者の数」を「難民申請の処理件数」で割ったものだ。例えば去年の場合、処理数6150人に対して74人の認定ということで認定率は1.27%になっている。低い。しかしその他に525人が本国情勢などを考慮して在留許可を得ている。いわゆる「補完的保護」の対象者で、この525人を入れて再計算すると9.7%になる。これを「難民保護率」と呼び、難民保護の実態をよりよく表す。
実は、難民保護の先進国とされる欧州諸国(EU)の「難民認定率」は、この「難民保護率」を使っている(https://euaa.europa.eu/.../4141-granting-international...)。つまり条約難民としての認定数に「Subsidiary Protection補充的保護」として補完的保護数を加えているのだ。その率は平均すると35%から40%前後。ドイツも40%前後だ。
今年になってポーランドなど欧州諸国に流入した700万人のウクライナ避難民は、既に400万人が「一時的保護」の対象者として登録されている。彼女らは「条約難民」と並んで今年の「難民認定率(=保護率)」の計算に入れられる。
日本の昨年の「難民保護率」9.7%は、欧州諸国の35%~40%に比べると低いが、今年の「保護率」はかなり大きくなる。8月までにアフガン難民申請者145人のうち133人が認定されたこと(認定率92%)に加え、ミャンマー人申請者の認定も増えそうだ。さらに年末までに2000人近くになりそうなウクライナ避難民の大半と、ミャンマーやアフガン人の多くが「補完的保護」の対象になるだろう。
シミュレーションをしてみよう。今年の処理件数を昨年と同じ6150件、難民認定は250人とし、ウクライナ避難民や退避アフガン人など2000人が補完的保護の対象になるとする(ウクライナ避難民のほとんどは難民申請をしないが、仮にしたとして計算する)。認定数は250件だが、保護数は250+2000=2250件となる。今までの計算による「難民認定率」は250/6150=4%だが、「難民保護率」は2250/6150=36.6%となり、欧州諸国と大差なくなる。国際比較のためには、EU と同じ計算式による「難民保護率」の方が意味を持つ。あくまでシミュレーションだが、実際の結果も似たような数字になるだろう。そうすると「認定率1パーセント以下」の政府批判言説も妥当性を失う。
日本の「難民認定率」と「難民保護率」の差は数年前までは小さくて無視できた。「補完的保護」の数が少なかったからだ。しかし今後、「補完的保護」の対象者の数が増えそうな中で、「難民認定率」でなく「難民保護率」を使うほうが、より日本の難民保護の実態を表す。影響力の大きい大手メディアは今後、「難民認定率」でなく「難民保護率」を使うべきだろう。
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