これも日本の「難民鎖国」が終焉しつつあることの例証。
トルコ出身のクルド人が難民認定を受けたことがないことを、「日本政府がトルコとの友好関係を保つためだ」とする説があるが、それは憶測にすぎない。入管(庁)が外務省の影響下にあった数十年前だったらあり得たろうが、今の入管庁にそのような意識はない。「友好国」出身だから難民不認定にするとか、「非友好国」出身だから難民認定するなどの方針はない。そんな方針があれば、大量に避難民を受け入れているウクライナは最大の「非友好国」ということになる。
今回の認定に至る直接の契機は札幌高裁の判断だが、背景には難民受け入れについての世論の変化と、この数年進んでいる難民認定制度の改革がある。
世論の変化では、去年のミャンマークーデター後のサッカー選手と東京オリンピックのベラルーシの女子陸上選手の亡命事件があり、アフガンの政変後には(特に女性の)窮状が広く報道され、今年になってはウクライナ戦争の悲惨さが毎日伝えられるなど、難民についての理解が進み、同情が集まった。世論調査でも、難民受け入れへの抵抗感が減っている。
制度面の改革では、UNHCRとの連携で「出身国情報」の収集・分析能力が高まり、申請者が帰国した場合の迫害の蓋然性についてより現実に即した判断ができるようになったと言える。20年ほど前には、UNHCR 駐日事務所が難民と認定したクルド人を、入管がトルコに強制送還して国際的に非難されたが、現地の情勢を把握できていなかったのだろう。数か月前にはミャンマー出身のロヒンギャ家族が、十数年ぶりに難民認定を受けたが、ミャンマー国軍による数十年にわたる激しいロヒンギャ迫害を、入管庁が認識するようになったためと考えられる。
もう一つの制度面での改革は、2014年に、第6次入国管理政策懇談会の下に設けられた「難民認定制度に掛かる専門部会」が提言した「難民認定判断基準の明確化」を受けて、数年かけてようやく完成した「難民認定ガイドライン」の影響だろう。同ガイドラインは最終調整中でまだ公表されていないが、難民認定についてのいわゆる「国際基準」の多くを取り入れ、より弾力的な認定ができるようになっていて、すでに難民認定の現場では使われていると思われる。
「難民認定ガイドライン」の公表は、認定にかかる「予測可能性」を高める。「借金取りに追われているから難民認定してほしい」と言った認定制度の誤用は減る一方で、アフガン難民などが抱いている「日本で難民認定を受ける可能性はない」といった認定制度への不信に基づく「日本素通り」も減るだろう。
「認定ガイドライン」は、秋の国会で議論される「補完的保護対象者」制度創設にも影響を及ぼす。この制度の創設も「難民認定制度に掛かる専門部会」の提言の一つだが、難民としての認定で救われるべき者が適切に救われていれば、「補完的保護」で二次的に救う必要は減る。
いま必要なのは、どのような者が「補完的保護対象者」とされるべきかの議論と同時に、「難民認定ガイドライン」の早期公表だ。
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