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ウクライナ避難民と日本の支援

3月10日の第37回難民問題にかかる議員懇談会総会の録画を視聴した。その中で、議長である議員が「UNHCRはウクライナからの避難民を難民と認めているのに、入管庁はなぜそう認めないのか?」という趣旨の質問をした。

UNHCRは「ウクライナ避難民は難民である」などとは言っていない。「中には難民がいるかもしれないから慎重に審査するように」と言っているだけだ(UNHCR Position on Return to Ukraine, March 2022)。

1951年難民条約の解釈でも「国際的または国内的武力紛争の結果として出身国を去ることを余儀なくされた者は、通常は、難民条約又は議定書に基づく難民とは考えられない」としている(UNHCR難民認定基準ハンドブック164項)。いわゆる「戦争難民」や「紛争難民」は、武力紛争を逃れてきたというだけでは「難民条約上の難民」とは認められない。国際法(1951年の難民条約)上の「難民」は、政府などによる「迫害」を受ける蓋然性のある個々人を指し、戦争や内戦から逃れる「難民」のイメージとは大きく違う。残念ながら、難民条約の対象はごく限られていて、難民条約による救済には限界があるのだ。

「250万人のウクライナからの避難民は全員が難民である」と言うのも、「その全員が難民ではない」と言うのも正しくない。「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、または政治的意見ゆえに迫害を受けるおそれがあるゆえに外国にいる者」かどうかを入管庁が(ほぼ完成していると思われる初の難民認定ガイドラインに従って)一人一人審査したうえで難民か否かを判断する。中には難民として認められる者もいるだろうが、その判断はとても時間がかかる。日本に来てもいないウクライナ人について難民か否かを入管庁が判断することはできない。

混乱の原因の一つは、難民という語と避難民という語がメディアなどで区別なく使われていることだ。加えて、日本特有だが、「難民」が「困った状況にいる人」の意味で広く使われていることもある。引っ越し難民、就職難民、買い物難民、英語難民、IT難民、就職難民、ランチ難民(ランチの相手が見つからない)、果てはバナナ難民(スーパーにバナナがない)までいる。日本人全員が何らかの意味の難民であり、「多重難民」が多いだろうから、合計すると日本にいる難民は数億人になろう。

難民=困った状況にいる人、という言葉使いが氾濫する国では、命がけで逃げてくるウクライナ避難民は難民以外の何者でもないことになる。そして「難民を難民として認めない入管庁はけしからん!」と非難する。避難民と難民を混同した結果の政治的言説だ。

困った状況にいる人をすべて難民と呼ぶことで、難民条約が本来対象としている「迫害を恐れる人々」は弾き飛ばされてしまう。また、来日したウクライナ人が難民か否かという「難民認定」にだけ関心を寄せることで、ロシアの侵略に苦しむ4千300万のウクライナ人への関心がそれてしまう。

定義の問題は国際法の学者に任せるとして、難民条約の保護の対象が限られる中で、危険を逃れて避難する人数百万人の人たちを救済しなければいけない。すでに250万人の避難民が流入したEUは、「一時的保護」という形で、ビザなしで避難民を受け入れ、何か月も何年もかかる難民性審査も省いて、難民と同様の形で在留を3年まで認めることにした。

日本にとっての問いは、日本に来れない(来ない)膨大な数の難民や避難民、国内避難民の救済に日本がどう貢献できるかだ。EU諸国に逃れた(現時点で)250万人の避難民に何ができるのか?ロシアの攻撃が続き社会インフラが壊されつつあるウクライナから脱出できない残りの4000万人強の国民(うち1200万人は人道支援が必要)に何ができるか?

例えば息子が徴兵され、その妻は子供とともに国外に脱出したが、老齢と病気でどこにも逃げられないウクライナの辺鄙な田舎で暮らす老夫婦は救済しなくていいのか?もっとも弱い立場にありながら、もっとも支援の手が届かないウクライナ人は何十万人もいるだろう。国内に残るウクライナ人にとって難民条約は何の役にも立たない。国際赤十字や国連機関、現地NGOによる道支援に期待するしかない。

日本が出来ることを考えてみる。まずウクライナから遠く離れた日本まで逃げてくるウクライナ避難民はせいぜい数百人と思われるが、そういう人たちはまず短期滞在で受け入れた上で、難民認定手続きにより難民と認定するなり「補完的保護」で対応することになるだろう。

そのほかに日本ができることは、多数の避難民を受け入れている国の負担を減らすこと(負担分担・責任分担)だ。

その一つが2010年に政府が開始した第三国再定住事業で、UNHCRの協力で難民や避難民のうち来日希望者を政府の費用で受け入れ、日本での定住を促進するものだ。現在は閣議了解に基づいてアジア諸国にいる難民・避難民を年に60人を上限に受け入れている。これを欧州諸国にいるウクライナ避難民に拡大して数十人でも救済するならば、日本の目に見える貢献になる。この事業は法改正を要せず、閣議了解があればできるので、ここは政治家の出番だ。

第三国定住に近いものには、留学生としての受け入れもある。シリア(避)難民については、官民の留学生制度ができている。いくつかの企業が就労の機会を提供していることは注目に値する。

最後に、誰にでもできることは「助ける人を助ける」ことだ。端的には日本の官民からウクライナの官民への資金協力だ。政府はすでに2億ドルの緊急支援を始めている。NPO法人国連UNHCR協会にも、昨年は60億円近い寄付金が寄せられた。官民の資金は数百万人のウクライナ人を裨益するだろう。

昔、UNHCRの財務局長をしていて、資金がないばかりに必要な支援ができない状況をたくさん見てきた。というより、UNHCRに資金が十分にあったことなど一度もない。財政事情が厳しい日本からの資金協力は、とても貴重で感謝された。日本の資金的貢献の価値はもっと評価されるべきだ。

国会議員には、難民条約の限界を理解したうえで、ウクライナ(やほかの国からの)避難民、難民に対して連帯するため、日本に何ができることをよく考えてもらいたい。

写真:左は議員、右は各省担当者。

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