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ウクライナ避難民「受け入れ格差論」をどう考えるか?(2)

 全ての国の全ての難民、国内避難民を積極的に、無差別に受け入れて救済することはどの国にもできない。一国の受け入れにはおのずから限界があり、「一部の国の一部の人」しか受け入れられない以上は、「選別」が避けられない。ワールドビジョンを設立したボブ・ピアスが述べた「すべての人々に何もかもはできなくとも、誰かに何かはできる」は、難民の受入れにも当てはまる。

 国際的な難民保護の基盤は「領土的庇護」で、難民は原則として自力で目的国にたどり着かなくてはいけない。たどり着けば難民制度で保護されるが、これは「自力救済型」の保護だ。ただ、多くの場合、目的国までたどり着けるのは体力や資力、支援者がある者、つまり壮年男子や金持ち、いわば難民の「エリート」だ。女性や子供、お金のない者は海外渡航はおろか出国もできず、難民にもなれない。これは難民の間に厳として存在する「格差」だが、それは受入国の政策による格差ではない。

 そこで重要になるのが、難民の中の「非エリート」で、より支援を必要とする者を受け入れ国が手を貸して救済する「他力救済型」だ。その典型は第三国定住事業で、日本もアジア諸国に暮らす難民を年間60人受け入れることにしている(過去2年はコロナで中止されている)。今般のウクライナ避難民やアフガニスタンの難民の国費での脱出支援と定住支援は「他力救済型」の第三国定住に近い「ハイブリッド救済型」だ。

 しかし、明らかでないのは、なぜウクライナやアフガニスタンからの避難者を優先的に受け入れるのか、なぜシリア難民でないのか、なぜ、バングラデシュのロヒンギャ難民やイエメンの国内避難ではないのか、ということだ。政府の決定の際に考慮される要因はいくつかあるはずで、それらをあえて推測すれば、3つのカテゴリーにまとめられよう。

 第1は人道的考慮だ。出身国での迫害状況、難民や避難民の命へのリスク、脆弱性、命を救うための緊急人道支援の必要などだ。

 第2は地理的な近さも含めた外交的考慮だ。UNHCRなど国際機関からの要請、我が国にふさわしい国際的責任の他に、ウクライナの場合は国際秩序をG7諸国と連帯して守るといった安全保障政策の考慮もある。

 第3は受け入れ後の定住支援の容易さと言えるものだ。教育歴や英語ができること、日本で就労可能と経済的自立能力、受入れ地域の自治体と住民の支持がありそうかということだ。都市型生活に慣れているかとか、文化的な近さや親和性もあるかもしれない。カナダなど移民国とは違う日本には、独自の支援モデルが要る。

 それぞれの難民状況について、1つの要素だけではなく、いくつかの要素が総合的に考慮される。ウクライナでは安全保障が前面に出た。アフガニスタンでは日本との関係が重視されたようだ。

 いずれの状況であっても、大きなウエイトを占めるのは社会的受容度ないし世論の支持だろう。ウクライナへの支援ブームに比べてアフガン難民への民間からの支援は勢いを欠く。ロヒンギャ難民を数百人受け入れると政府が決めたら、どのくらいの自治体が受け入れに手を挙げるだろう。住民の「心の中の国境」は開くだろうか?世論の支持のない受入れは、どんなに倫理的、道徳的に正しくても、受け入れられた難民も地域住民もハッピーにしない。両者がハッピーでなければ、倫理的にも正しくないかもしれない。

 このほかにも支援予算など、考慮される要因はあるだろう。「難民鎖国」が終わりつつある中で、今後は難民が数百人単位で受け入れられる可能性がある。今年だけでも2千人を超えるかもしれない。

 そうであれば、これらをオープンに議論して整理し、日本としての受入れと在留支援の基準を作って明らかにすることが必要だろう。関係省庁は入管庁だけでなく外務省や厚労省などもあるから、「基準」は閣議のレベルで決められるべきだろう。そうすることで、難民・避難民の受入れについての国内的・国際的な透明性と説明責任が高まる。(続く)

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