日本では、ヨーロッパの移民難民問題は良く取り上げられるが、アメリカの問題については比較的少ない。
アメリカへの合法移民は年に100万人ぐらいいるが、その他に多くの移民が不法入国する。トランプ政権は、2020年に「タイトル42」と呼ばれる移民制限措置を導入した。伝染病などを持ち込む危険があると判断した場合に入国を禁止できる措置で、表向きは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとされているが、実際には不法移民を入れないために適用されて、2年間で250万人が送還されたという。
移民難民に寛容なバイデン政権は、この措置の撤廃を表明していたが、それが逆に「呼び水」となって、アメリカを目指す不法移民や難民が急増し、去年10月までの一年間で238万人もがメキシコとの国境で拘束された。一種のモラルハザードだ。バイデンの政策が行き詰まり、「タイトル42」の継続を最高裁が命ずる中で、多くが即時送還される。
一つの大きな問題は、彼らが難民申請すら許されないまま送還されてしまうことだ。即時送還された者の中には1951年難民条約に該当する者もいるだろう。門前払いの形での難民申請者の送還は1951年難民条約に明らかに違反するが、共和党支持者を中心とした移民難民排斥派の声に屈して、政府は条約違反に目をつむる。
移民でできた国、人権を尊重する国と言うアメリカの理念からすれば、難民を追い返すというのはあり得ないことだ。移民難民流出の根本原因である中南米諸国の混乱に、アメリカの関与が大きかったという道義的な責任もある。しかし、数百万人もの不法移民難民の流入に対する米国内の大きな反撥も政治的には無視できない。
バイデンが、「外国人は歓迎だが、合法的に来てくれ」と言ったそうだが、移民難民側からすると、合法的ルートが狭いから非合法に入国を図る、ということになる。どこまで合法的ルートを広くするかは難しい決定。アメリカに行きたい人々は何百万人も、たぶん何千万人もいるのだ。
移民難民問題はアメリカ国内の「分断」をさらに深刻化する。アメリカの悩みは大きい。ここでは触れないが、ヨーロッパの移民難民問題も深刻だ。
それに比べたら、日本の移民難民問題の規模は小さいと言える。それどころか、混乱を伴わない「合法的な受入れ」を少しずつ進める日本は、「新しい移民政策モデル」を提供するとさえ言えるかもしれない。
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